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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

パルテノン神殿へ

                ≪十月十九日≫   ―燦―


   シンタグマには向わず、足をアクロポリスへ向けた。
 ここからだと、入り口は小高い丘の反対側になっている。
 おかげで、麓を半周する羽目になってしまった。
 途中、小さな店に立ち寄り、パンで昼食を取る。
 歩いたおかげで、腹の空腹感で持たなくなってきたのだ。

   その店で、絵葉書を数枚買い込んで、目的地のアクロポリスへ向っ 

 た。
 大理石で飾られているアクロポリスは、実に美しい。
 丘の中腹には、駐車場・公衆便所・ポストオフィスがある。
 日本なら、さしずめ観光客でパーキングは満車のはずなのだが、皆歩いて

 上ってくるからか、小さなパーキングなのに、実にゆったりとしている。

   そこから、石畳を少し駆け上がると、受付があった。
 入場料は、30DR(≒270円)。
 木曜日と日曜日は無料。
 学生証を見せると、5DR(≒45円)と格安になっている。
 もちろん俺は学生?だから(タイのバンコックで作った学生証を持ってい

 る偽学生)5DRで入場することが出来た。
 (ギリシャの皆さん、ごめんなさい!)

   受付近くの門をくぐると、大理石の建造物に圧倒されてしまう。
 かなりの部分壊れているものの、それがまた遺跡と言う価値をうんで居る

 ようだ。
 さしずめ、日本なら、完全に修復してしまって何かで囲ってしまい、指一

 本触れないようにしてしまうだろうが、ギリシャではそんなくだらないこ

 とはしないのだ。

   遺跡は遺跡。
 そのままの姿を、後世に残そうと言うわけだ。
 もちろん修復はしているが、それはこれ以上破壊を進ませないための修復

 に留めているのだ。

   丘の一番上に、パルテノン(処女)神殿が横たわっている。
 様式としては、最初の頃のドリス式建築で、世界三大建築(神殿)の一つ

 であると言われている。
 このパルテノン神殿は、人の目の錯覚を巧みに計算して、設計されている

 と言う。

   基壇にも柱にも、微妙な曲線が用いられていて、パルテノン神殿は 

 「曲線によって、直線の美を表した建築」として有名なのだ。
 今では完全に、屋根はなく、柱の一部・壁の一部が破壊されてしまってい

 る。
 戦争のとき、砲弾を受けたのだと言う。

   倒れた柱は、そのままにして、屋根も修復しようとしない。
 元に戻すのではなく、ありのままの美しさを後世に伝えるのだと言う意識

 が、日本とは違う文化なのだろう。
 15年をかけて造られただけあって、荘厳なる力強さが伝わってくる。
 エレクスイオン神殿も、かなり酷いらしく修復を急いでいる。

   この神殿の柱は、すべて女神像で出来ていることで有名だ。
 数ある柱の中で、一体だけ、色が違っているのが分かる。
 破壊された後、造られたもの、そう偽物なのだ。
 ・・・・では、本物はどこに?
 あの有名な、イギリスの博物館に保管されているらしい。
 おかげで、あの権威ある大英博物館も今や、泥棒博物館と呼ばれているの

 も分かる気がする。

                  *

   ここからは、360°アテネ市内の眺望が広がっていて、実にすばらしい

 の一言に尽きる。
 あまり高層の建物もなく、海のように街並みが広がっているのが見える。
 そしてここアクロポリスは、海に浮かぶ島。
 あのエーゲ海も見渡せる様は、今にも天空から天使が降りてきそうな、そ

 んな雰囲気を持っている。

   そんな風景を眼下に望みながら、大理石のベンチに腰を下ろし、日本

 へ便りを認める。
 今日は、日本人観光客には会う機会がないが、旅行者は相変わらず絶える

 ことがない。
 ギリシャの300日晴天(365日の内300日が晴れている)は有名だが、どうや

 ら俺が雲を運んできたみたいだ。
 午後二時を過ぎると、見る見るうちに厚い雲が広がり、風も少し出てきた

 ようだ。

   下山を決意。
 とうとう今日も、あの三人は現れなかった。
 いつものコース、プラカ地区を通り抜け、シンタグマ広場へ出ると、カフ

 ェテラスで腰を下ろした。
 目の前を通る車の列と、人の流れをジッと目で追う。
 本当にここに居ると、現実を忘れさせてくれるようだ。

   ジョセフHOUSEへ向う頃には、夕闇が広がっていた。
 街灯の少ない、暗い夜の公園を抜けていく。
 不気味な空間が広がっている。
 誰かにジッと、見られているような、そんな気配を感じながら足早に、通

 り過ぎる。
 時折、若い二人が、暗闇の中で息を凝らして、ベンチに腰掛愛を確かめ合

 っている姿を目にすると、ここも東京と変わらないのかなと、ふと思って

 しまう。

                    *

   ジョセフHOUSEに近い交差点で、偶然和智会長と玲子ちゃん(会長の奥

 さんの妹さん)に出くわした。

       俺 「和智さん!」
       和智「おお!東川君か。」
       俺 「誰か、待ってるんですか?」
       玲子「自炊するので、買出しに出かけていった新保君らを見

 かけたんで、待ってるのよ。私も今日から、ジョセフHOUSEへ引越しするこ

 とにしたの。」

   なるほど、たくさんの荷物を抱えている。
 若い者は若い者同士、和智さん家族のホテルを抜け出してきたのだと言 

 う。
 子供が居ると、どうしても世話にかかる。
 ギリシャまでせっかく来たのだから、もっと楽しみたいと言うのが、玲子

 ちゃんの言い分らしい。

       和智会長「実はな~~~!」
       俺   「はい。」
       和智  「内の嫁さんに、子供の世話を頼まれるもんだか 

           ら、逃げ出してきたんだ。」
       玲子ちゃん「ギリシャに来てまで、子供の世話はないでし  
           ょ!嫌よ!」

    どうやら、玲子ちゃん、それが本音らしい。
 (外園玲子:1955年2月18日生、和智会長の奥さんの妹なり)
 そうこうしている内に、大きな紙袋を抱えた、新保とチハルが手を振りな

 がら近づいてきた。

       新保「やー!東川さん。久しぶりです。一緒にどうです。」
       俺 「そのつもりだけど。」
       新保「賑やかになるな!!」

   久しぶりに、賑やかな夕食になりそうだ。
 会長の奥さんは気の毒なのだが。


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